◯「不毛地帯」
フジテレビ版(2009年)
<2009年10月15日フジテレビ系の木曜劇場フジテレビ開局50周年記念ドラマ、全19回。
第64回文化庁芸術祭参加作品。キャッチコピーは剥き出しの人間たち。唐沢寿明主演>
<ドラマ『不毛地帯』山崎豊子原作の小説、1973年から78年までサンデー毎日に連載され、その後、書籍化。累計434万部(2009年7月現在)を売り上げた。>
<終戦から復興を目指し、高度成長期の日本。11年ものシベリア抑留を経て、総合商社に入社した男がビジネスという戦場に身を投じ、戦争体験との葛藤を抱えながら、世界を相手に戦うさまを描いた。終結までのおよそ30年間、世界各地を舞台に描く。
壹岐正の妻に和久井映見。娘・直子役に多部未華子。親友に柳葉敏郎。壹岐の心の支えとなる女性に小雪。軍人時代の上官に橋爪功、中村敦夫。僧籍の元軍人に佐々木蔵之介。他に、原田芳雄、天海祐希、竹野内豊、岸部一徳、遠藤憲一、伊東四朗、段田安則、古田新太、阿部サダヲ、松重豊、梶原善、袴田吉彦。
1960年代、70年代の日本。『不毛地帯』は、戦後、シベリア抑留という過酷な経験を経た後、その激動の時代を商社マンとして必死に生きた壹岐正という男の生きざまを描いたもの。そこには、憎悪、純愛、悔恨、悲恋、嫉妬など、いつの時代にも共通するテーマがあふれている。主人公が悩み、時に挫折し、葛藤しながらも、次々と現れる難題に果敢に挑んでゆく姿は、21世紀の今を生きるわれわれの心を激しく揺さぶるに違いない。フジテレビ(編纂)>
◯実在の瀬島龍三と壱岐正
原作者の山崎豊子氏は、モデルとなる瀬島龍三氏に徹底した取材を行いました。
壱岐正は、戦後日本のあるべき倫理観を投影した理想像としてのキャラクターです。
実在の瀬島氏は昭和の参謀として、プラグマティックな人物であったそうです。
一方、壱岐は、組織の利益よりも国家の行く末や亡くなった戦友への義理を優先する潔癖さ。瀬島氏一人の投影ではなく、当時の複数の商社幹部やシベリア抑留者の過酷な体験談を統合した存在として描かれています。
◯ 戦争責任とシベリア抑留
作品では、壱岐の苦悩が物語を動かしますが、現実の瀬島氏に対する評価は、複雑です。壱岐正は、11年にわたるシベリアでの過酷な労役を経て、常に死者への贖罪を抱えながら生きています。作戦参謀としての失敗を一生の傷として背負い、剥き出しの人間として葛藤を露わにする姿が印象的です。
瀬島氏も同様に11年間抑留されましたが、ソ連側との交渉窓口としての役割も担っていたとされています。氏の著書では当時の出来事を淡々と記述しており、戦史研究家からはその責任について厳しく批判されてもいました。
ドラマ版では、視聴者が感情移入しやすいよう、瀬島氏の沈黙を内面的な苦悩として翻訳して描写しているといえます。
第2次FX(次期戦闘機)選定をめぐるラッキード(現実のロッキード)事件の描写についても、物語化が行われています。
瀬島氏(当時は、伊藤忠商事)はF-104戦闘機の導入に関与しました。しかし、ドラマで描かれるような、すべてをコントロールしたという構図は、エンターテインメントとしての劇画化です。実在の選定プロセスは、政治家や防衛庁内部の派閥争いがより泥臭く絡み合っていました。
作品ではこれらを壱岐正 vs 東京商事の鮫島という対決構造に集約することで、密度と緊張感を高めています。
壱岐正は戦後日本のエリートの象徴として再構築されたという結論は、山崎豊子文学の本質を突いています。当時の日本人が向き合いたかった理想の自画像がわかります。
