『侍タイムスリッパー』からみる日本の時代劇(2)
◯映画草創期から戦前―チャンバラ映画と大衆娯楽
日本における時代劇映画は、1920年代のチャンバラ映画に始まります。
阪東妻三郎主演の『雄呂血(おろち)』(1925年)で描かれる侍は、
正義の味方というよりも、社会に適応できず、暴力へと追い込まれる存在でした。
時代劇は単なる勧善懲悪ではなく、体制と個人との摩擦を描いていたのです。
観客は、剣戟の爽快感と同時に、閉塞した社会への鬱屈を
侍の姿に投影していたのでしょう。
◯戦後時代劇の深化―倫理と共同体
戦後時代劇の代表作、黒澤明の『七人の侍』(1954年)では、
侍は、農民を守る英雄であると同時に、勝者になれない存在として描かれました。
ラストのせりふ「勝ったのは百姓だ。我々ではない」は、侍階級の終焉を示しています。
侍は、社会の中心ではなく、歴史から退場していく存在です。
戦後日本が経験した価値観の転換、封建制から民主主義への移行と結びついていたわけです。
市川崑監督の『切腹』(1962年)では、侍の名誉や武士道がいかに空虚な制度であったかが暴かれます。形式化された倫理に殉じることの残酷さを描きました。この作品は、時代劇が、自己批判的ジャンルへと成熟したことを示す。