◯岩と宇宙
画家の千住博さんは、岩の具、つまり岩石に惹きつけられ、画家への道を決心したそうです。
日本画の岩絵具は、全世界で得られたものです。岩絵具から宇宙そのものを想起し、宇宙との対話を行っているのです。そこに紙と膠を得て、人間の文化の歩みを感じます。この長い時間軸と広い空間軸で捉えられ、そこで形成されたのが、彼の世界観なのでしょう。
絵を描くというのは、頭を整理することです。デッサンをする、デッサンとは、どこまで見たかということです。つまり、観察力を身につけるトレーニングです。私は、形にする、独自のタッチや線を見出していくトレーニングと言ってきましたが、その前提に、対象の把握力があるわけです。紙の上に形として表すことで、リアルに現出させます。
それによってコミュニケーションをとるわけです。それには、見てくれる相手が不可欠になります。相手をどこに求めるかも、大きな問題でしょう。
そういえば、日本デザイン会議に弟の明さんの依頼で、出講したとき、日本のアートは、建築家が主流なことを突きつけられました。黒川紀章さんが気を吐いていました。たけしさんが駆けつけて、会場を爆笑させていました。そのイベントが機で、鈴木松美さんとの共著や鴻上さんのワークショップへの出講など、活動が広がったのです。若かりし日、いずこですが。
◯日本の組織
千住さん曰く、
戦後、死守しようとしたものが、芸術の本質ではなく日本画壇の構造そのものだったのです。日本画を扱う画商と収集家が結束して日本文化を守ろうとして、国内の支援者だけで支えられるようになったために、国際的に通用しなくなったそうです。
つまり、見てくれる相手の問題です。日本というクローズな市場は、それなりに大きく、ここで回せるために、どうも世界へのプロデュース力に欠けるのです。構造問題です。
守ろうとして内輪で固まり、変革者を排斥していく、よくみられる構図です。
日本のマーケット自体がクローズする、こうした危機においても、保守体制で先のことを考えもしない。そういう人とその仲間が中心で権力を握っているからです。
外に向かって開かれた思考がないために、これまでのパターンを踏まえてパターン化した人だけが生き残っていくわけです。ひがみ、嫉妬、ねたみで、目立つものは、足をひっぱられ切り捨てられていきます。
日本人が組織を作ると、どうも、そういう方向になってしまいます。これからは、そこを注意して変えていかなければなりません。
日本の音楽業界も、いえ、日本のあらゆる組織が似通っていると思います。私も今の業界とは距離を置いていますが、昭和歌謡全盛期の頃の日本の才能レベルとこれからの世界の人材との関わりを失わないように動きたく思っています。